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部屋に戻ってみると、全員がこっちを見上げている。 それも、何か言いたそうな顔で。
よく見たら水飲みが床に落ちていた。 吊り下げ式の、吊るための穴の周りを、 よじ登って全て齧ってしまったらしい。
そりゃぁ喉も乾くだろうが、自業自得でもある。 しばしそういう内容の話しをしてみるが、やはり聞いてない。 安い店を見付けてまとめて買っておいた、その最後の一個の水飲みを、 よりによって自分たちでダメにしてしまったのだから仕方が無い。 気の毒だったねぇとは思っても、同情の余地はない。 それにこんな時間に水飲みを売ってるお店が開いているわけがない。
.......相変わらず、見つめている。 徐々に、何かしなくちゃいけない雰囲気になってしまった。 あ、それなら中の巣材を取り替えましょうか? ついでにゲージも洗って綺麗にしましょうか? だから水飲みは明日まで我慢しなさい! 新しいの、買ってくるまで、乾いてなさい!
ということで、まず予備のゲージに引っ越しさせ、 居間と風呂場を行ったり来たりの大掃除が始まった。 予定では巣材を取り替えるつもりで藁は買ってあったが、 ここまでするつもりは無かった。 洋服用のプラケースを改造したのが一つと、 60cmのガラス水槽がひとつ。 ゲージを動かした後には細かい藁くずが落ちていて、 ついでだから掃除機かけて綺麗にしよう。 そう思ったのが、実は運の尽きだったのだ。
充電式のスタンドに立ったブラシタイプの掃除機を持ち出し、電源を入れる。
「.......。、........、」
何故か分からないけど、バッテリーが空っぽのようで、 揺すろうが叩こうがうんともすんとも言わない。 ただでさえ吸い込みが弱くて力不足なヤツなのに、 動かないとなると、こんなものただのオブジェでしかない。 仕方なく充電からやり直すことにした。 とりあえず一カ所吸ってしまえば順に動かして掃除は出来る。 ところが今度は、音がするだけで全くゴミを吸ってる気配がない。 そればかりか持ち上げる度に少しずつゴミを掃き出してさえいる。
....状況はまた一歩、退廃方面へ大きく傾く......
ゴミがたまるべき部分はほとんど空っぽなのに、 その手前のフィルターが見事に目詰まりを起こしている。 あ、ついでにこれも洗っちゃえばいいかもな。 フィルターと、ゴミケースと、そのハウジング部分。 ボディ本体も綺麗になるかな?おしっ洗っちゃお。 全ての部品を洗い終え扇風機の前へ置いてから、やっと気が付いた。
「フィルター乾かないと、使えない、ぞ?」
勝負あった。 洗いかけのゲージと引っ越し途中のネズミ達と、 綺麗になりかけている掃除機。全てが止まってしまった。 立ったまま藁まみれの絨毯を見つめ、少し前の出来事を思い出す。 そんなこと以外、とりあえずする事がない。
その時はそもそも企画書を書いていて、それが途中で歌詞に変更になり、 メロディも録っておこうとギターを持ち出して弾き始めたはいいけれど、 ずっと気になって弾いてみようと思っていた他人の曲を思い出し、 CDプレーヤーのスイッチを入れて合わせて弾いてみる。 あ〜、こうやって弾いてるんだ!とかの発見もしつつ、 なんとなく弾けるようになって満足な気分だったけど、 気が付くと企画書からは遥か遠くの次元まで来てしまい、 ううじんの曲を弾いたりしてる自分が居るわけだ。
これは、いかん。 大人として、人として、いかん。 この前そう思ったばっかりだったのに。
現在午前四時、ネズミ達は引っ越し先で眠ってしまった。 フィルターは、まだ乾かない。 |
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